2021年09月11日

沖縄の怖い話 - 小原猛

 沖縄に移住した著者が、地元の人々から聞いた怖い(!?)話をユーモアたっぷりにつづる本。著者はもともと京都の人らしいが、その軽妙な文体に引きこまれ、「怖い話」というタイトルも忘れて何度も笑ってしまった。



 花粉症の症状緩和のため、沖縄での暮らしを選んだ著者。沖縄でいまも人々の生活に溶けこんでいるユタ(女性シャーマン)の存在や、現地での民間信仰、神様のことに最初は関心がなかった。だがご自分の両親の名前を、名前のよくある誤読も含めて当てられたことで、興味を持つようになる。

 聞きとった話が多く収録され、誰それのところに何が出た、ユタに話を聞いてもらったなどの、怪談では一般的な(?)展開もある。だが、あまりにも登場人物らの描写が生き生きとしているために、笑ってしまうこともしばしば。

 自分の店に女の幽霊が来たので脅してやった、もう来るなと塩を撒いてせいせいしていたら、のちにユタがやってきて、このあいだ亡くなったあんたのお孫さんは、店でかくれんぼがしたかったのに−−やら。

 七章目の「砂場のオジイ」からはじまるオジイ連作は抱腹絶倒。人に迷惑をかけまくって死んだオジイ(幽霊で出てくる)と、その孫のところに出てきていると知った娘が「さんざん迷惑かけやがったのに孫(自分にとって息子)のところに出てきてないで、さっさと成仏しやがれ」と怒りまくる話。娘が怖いので孫のところにばかり相変わらず出るオジイと家族の、笑いなしには読めない話だ。

 夏だからかもしれないが、Kindle Unlimitedの対応作品(定額)だった。購入した場合でも数百円なので、ぜひご一読あれ。
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2020年11月10日

新編 山のミステリー 異界としての山 - 工藤 隆雄

 山の話はほんとうにおもしろい。興味がつきない。
 海なし県に生まれ育ったためか、山に関する話は実感を持って感じられることが多く、子供のころから地元でささやかれる話に親しんできた。

 そして、佐々木喜善が集めた話を礎とし、その後は柳田國男によりさらに有名になった遠野の物語に魅せられて、わたしは多くの山の民話を読んだ時期がある。

 本書はそれまで山岳関係の雑誌に掲載されるなどしたものを2005年にいったん本として発行し、さらに2016年に、内容を充実させて新刊にしたものだそうだ。

(わたしはKindleで読んだが、活字版もある)


 不思議な話といっても怪談めいたものばかりではなく、純粋に「不思議」である。それも体験した人たちの口から出た言葉を咀嚼して文章につづっているので、著者が取材した当時に誰かがそういう体験を語ってくれたという現実味もある。

 登山のベテランや捜索のプロが探しても発見できなかった遭難者や遺品を、のちに山に関しては素人である家族が訪れると、見つける事例があること。

 山に慣れていない人が、誰かが大声で遭難してうめいていると警察を呼んでしまっても、知っている人が聞けば、鳥の声であること。

 誰もくるはずがないほどの悪天候に山小屋を訪れた女性を、小屋の人間が幽霊だと思ってしまったことや、暗い山小屋でほかの利用者に声をかけるタイミングがなく困っていた男性が幽霊に見間違えられ、ようやく誤解が解けたところで、単独行なのに「先ほど顔が見えた女性も一緒に」と誘われたこと。

 どれも、味わいがある。
 中には人間の傲慢さや醜さを描写する、不思議な話とは趣の異なるものも含まれていたが、わたしはそれでこそ味わいがあってよいと感じた。
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2020年04月26日

恐怖箱 怪医 - 雨宮淳司

医療に関係のある怪異を集めた本。不思議な話、幽霊話など、分類が難しいものが詰められている。
 


 

 聞き取ったものを採録しているという形式のため、怪談らしくオチをつけて物語にしているものはあまり多くなく、そこがなんとなく楽しい。

 あいた時間にちょっと怪奇話を楽しみたいという人には、とてもよいかと思う。

 個人的には、九州の精神病院を舞台にした話「ぞろびく」が好みだ。あとはもう、読んでくださいとしか言えない。
posted by mikimarche at 21:10| Comment(0) | 趣味(その他)