2020年01月23日

Black Box (ブラックボックス) - 伊藤詩織

 内容がつらそうに感じたため、読む勇気は出ないと思っていた。だが先日の民事訴訟で著者の伊藤氏が勝訴となり、その影響なのか、たまたま電子書籍版が定額読み放題のラインナップにはいった日があったので、ダウロードしておいた。

 数回に分けて、ようやく読み終えた。



 少女時代のこと、そしてジャーナリストを志して外国の大学で学ぶ日々が綴られたあと、2015年のその日が語られる。
 合意どころか、そんなことをする間柄とは思っていなかった人間により、一方的な性行為がなされた。

 その日のことはもちろん憤ろしい話である。だがその後のことは、さらに過酷だ。

 直後は自身の状況すら理解できず、前日の夜間から早朝まで数時間の記憶は現在でも失われたままだ。パンツぐらいお土産にさせてよとうそぶくふてぶてしい男に、著者は利用された。しかも経緯が不明な、出血をともなう怪我もあった。妊娠や動画撮影された可能性にもおびえつつ、自分をとりもどすために、被害届を出した。

 男性だらけの警察署で説明を何度も何度もくり返したあげくに、加害者を想定した人形まで使って事件の再現をさせられた屈辱は、読んでいる立場でありながら、叫びたくなるほどだった。仮にその再現が必要であったのだとしても、女性警察官の立ち会いもないとは、いったいどういうことなのか。

 数ヶ月以上の屈辱と、くじけそうになる心と、そして長いあいだ継続していた膝の痛みを乗り越えて、ようやく逮捕へと話が進んだ。そのまま逮捕がおこなわれていれば。話は少しは違う方向に進んだかもしれない。だがたったひとりの人物(警視庁の上層図)により、逮捕は見送られる。

 法の下ですべての手続きが順調に運べば、顔を出して会見する必要すら、なかったかもしれない人物である。
 人前で訴えねばならない状況に追いこまれたその人物が、心ない人々により中傷され、たたかれている。

 真実を知りたい、泣き寝入りはしないとの信念からはじまったことだが、もはや、著者ひとりの闘いではない。ご自身の分以上に、結果として世間の女性を背負ってしまった。

 ご家族とは話し合いを重ね、顔を出しての会見では強く反対をされたものの、言い出したら聞かない性格だからと、消極的な了解を得た。多感な年頃の妹さんとはうまくいかなくなってしまったが、自分以外の誰かが同じような目にあったらという思いもまた、著者を動かす力のひとつになっている。事件の当初から相談にのり、家に泊めてくれもした知人ら。話を聞いてくれた同僚や弁護士、助言をくれたジャーナリストなど、多くの人たちが力になってくれているが、著者の闘いは、つづいていくのだろう。
 
 著者の強さと、勇気に、心からの敬意を表する。
posted by mikimarche at 15:00| Comment(0) | 実用(社会・事件)
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