2019年07月05日

もしも魔法が使えたら 戦争孤児11人の記憶 - 星野光世

 発売当初からずっと、いつか読むと心に決めてAmazonのウィッシュリストに入れておいた本。8月の終戦記念日より前に読み終えておきたいと、順番を繰り上げた。
 ある日突然に親や家族を失い、親戚らからは冷遇され−−心理的ないじめのみでなく強制労働や人身売買業者への売り渡しもあった状況で、どうにか生き延びた11人が、体験をつづる。



 長く丁寧に綴る人もあれば、ほんの短い文章もある。だがそれでもそれぞれの行間には重みがある。
 頼る人もなく、世間や行政からは見捨てられ、浮浪児の「狩り込み」と呼ばれた強制収容では、檻に入れられ水をかけられたという。別の体験者によれば東京都の人間にトラックに乗せられて、茨城県の山中に集団で捨てられたという。

 戦争の犠牲者であり、家族を失った子供たちに対し、野犬のような扱いである。しかも日本の戦後社会は、豊かになってからでさえもその人たちに詫びるどころか、存在を語り継ぐことすらしてこなかった。少なくともわたしは、浮浪児と呼ばれた子供たちの強制収容や親戚による人身売買など、最近まで知らずに過ごしてきた。

 本書は、戦後を生き延び、連れ添った夫が先立ったのちに、ふと色鉛筆を手にとって絵を描いてみた著者の思いから生まれたものである。戦後から70年近くを経て当時を思い、絵を描き、文章を添えて自費出版したものが、この講談社版につながった。

 それほど悲惨な日々を送ったのに、描く絵は透明感すら感じさせる純粋なものだ。理屈や雑念はそこになく、ただ当時に家族がいてくれたらと、それで幸せでいられたのにという素直で素朴な思いがそこにある。

 もしも魔法が使えたら−−
 ほしいものは、豪邸でも金塊でもない。現代人の多くがあたりまえに享受している、素朴なものだ。
posted by mikimarche at 23:25| Comment(0) | 実用(歴史・文化)
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