2019年05月28日

シニア起業の「壁」は「心の壁」- 村上孝博

 銀行勤務を経て定年退職した著者が、職業訓練講座の受講をきっかけに、それまで関心のなかった分野(製菓製パン)に興味をいだいて個人でパン屋を開業した経験をつづる。



 長い年数を事務や営業でおつとめだっただけに、文章を書くことに慣れていらっしゃるようだ。また開業以来の主力商品でたいへん人気があるという米粉シフォンについても、講習の最初ではメレンゲの意味すらわかっていなかったということを書かれていて、素人目線から業界にはいったことが正直に書かれていて、とっつきやすい。

 まずは自分なりの無理のない規模でと、間借りから開始した店が、少しずつ軌道にのっていく。
 売れるかもしれないと、慣れていないことに手を出すと失敗する話。たとえば催事のような企画に出品を頼まれても、普段から商売しているお客が相手ではない場合には販売個数も読めない。あるいは定番商品であっても季節だけ別味を出すとお客が手に取ってくれるが、あまりに欲を出して冒険をしても成功しない話。

 読みものとして最初から読んでいってもよいが、目次がとても丁寧に書かれているので、起業部分にとくに関心がある人は、拾い出して読むこともできる。

 開業においては家賃の計算、店の規模などを先に考えて、つづいて食材比率、損益分岐点売上高を考えていくべきであるという指摘は、まったくもって元銀行家らしいご意見。そして普段から接しているお客さんたちのご縁で、あらたな縁へとつながっていくことがあるという、身をもっての体験談。

 食品でお店を開きたい方は、読んでみて損はないかと思う一冊。

 最後に、文体について。
 中盤では、書き方がやや啓発系のビジネス書のようになっている部分があり、気になった。おそらくは読みやすさを狙ったものなのだろうか。たとえばわずかな内容を書いたあとで「気づき」と題して1行程度のことを書くのだが、直前までの文章を普通に読んでいて頭にはいることであり、むしろ「気づき」を入れずに文章を書きつづけていったほうが、自然なリズムがたもてるように思った。好みの問題といってしまえばそれまでだが。
posted by mikimarche at 21:50| Comment(0) | 実用(その他)
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