2013年08月26日

人類とカビの歴史 - 浜田信夫

 タイトルは難しそうに響くかもしれないが、専門家による高度な学術書という雰囲気はない。むしろ生活に密着したカビの話が多く出てくる。

 環境科学研究所に勤めていた著者は、企業や一般の人から広くカビに関する相談や問い合わせを受けてきた経験からと思われるが、語り口はやわらかで、一般読者がどんな言葉ならわかりやすく感じるのかを心得ている。専門的な話題を含みながらも本書がわかりやすく、結果として専門分野への橋渡しの役割を果たしているのは、わたしのように科学が苦手だった人間にしてみれば、とてもありがたい。



 第一章で「細菌、酵母、キノコとの違い」や、カビが何を栄養にしているのか、種類の解説など、ひとことで表現するなら"カビの生き様"のような包括的な内容を扱い、つづいて人間の日常生活に密着した内容を、豊富な事例とともに紹介していく。

 だいたいの目次は、以下の通り。
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○ 第一章 カビとは何か
○ 第二章 食品とカビ
→ 食品に生えるカビ、カビから得られる食品
○ 第三章 住居とカビ
→ 洗濯機、エアコン、浴室、居間、結露とカビ
○ 第四章 カビと健康
→ カビ毒、水虫、アレルギー、その他のカビ、カビから生まれた薬
○ 第五章 カビと人の関わりの変遷
→ 身近なカビのルーツ、ライフスタイルの変化とカビの変化、外国のカビ事情、カビに対する人の意識の変化、文学に見るカビ
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 洗濯槽や浴室のカビについては、もともとは室内にいたわけではないカビ菌で合成洗剤や界面活性剤を栄養にできる種類のものが、人間の住環境の中で水回りを見つけて、住みはじめたそうだ。それは全世界的に同じ傾向だといい、かつて自然界に存在しなかった界面活性剤たちを栄養にできるからといって、新種のものが生まれたわけではないという。

 カビがまったくない浴室を目指している人が多いが、湿り気のある場所にカビが出るのは当たり前で、掃除が行き届かないとか住人が怠惰という意味にはならないのに、世間の人々はカビに何か恨みでもあるのかといった、ユーモアたっぷりの表現が随所に見られ、ページをめくる手が軽くなった。

 個人的にもっとも驚いたのは、P.230から書かれているカビ毒で、麦角(ばっかく)菌による中毒のこと。この中毒患者に若い女性が多かったことでその異常行動が魔女裁判(セイラム)のきっかけになったという説があるようだ。知らなかった。

 また、スリランカは本来コーヒーの産地だったが(P.210)、カビ菌でコーヒーの木が全滅してしまい、紅茶の栽培が盛んになったという。もしその時期にコーヒー豆が被害に遭わなかったら、現在のイギリスは紅茶の国ではなく、カフェ文化の盛んな国になっていたかもしれないと思うと、おもしろい。

 日常生活に必ず顔を出す、人間の共存者としてのカビについて、とても楽しく学べる本。
posted by mikimarche at 18:45| Comment(0) | 実用(暮らし)
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