実のところ、ゴミ屋敷のような話はほとんどなくて、多くは事情で人が亡くなった家の片付け(人体の残留液や血液の除去と清掃を含む)であった。それはそれで好きなテーマであるので、読みつづけた。
怖がらせようという意図でも、一般人はしらないことだろうから知識を与えようという書き方でもなく、ただひたすら作業をこなしながら、著者は自分の頭に浮かんだことをつづっていく。読む側も、頭が下がるなどのありきたりな言葉が浮かぶよりも、まずそのよどみない文字の流れをただひたすら目で追う。
誰かの日常が急に終わって、その生活の最後の場を片付ける人の日常が、つづられている。それをまた日常の流れの中で誰かが読む。この流れは永遠につづく。川と同じで、はじまりも終わりもなく、大きな水に溶けこんだ無数のしずくがあり、それが永遠につづいていく。
ときに自嘲的にご自分を表現したり、「おでん(前後編)」のように、読み物としてはらはらしてしまうような場面もあるなど、文体が読みやすいというだけではなく独特の軽快なリズムが心地よく、夢中で読み終えた。
長い本ではない。だが読み終えてみて、何人分かの時間を経験したような軽い疲れと、洗ってもらったようなすっきりした思いが残った。