あとがきによると、本文にはあまり手を加えていないそうである。そのかわり宿やワイン、料理などの脚注を足す形で読みやすくした。
本文には殿様(池波)に随行する三太夫(著者)といった表現がしばしば出てくる。三太夫とは、デジタル大辞泉によれば「もと、華族や金持ちの家で、家事や会計をまかされていた家令・執事などの俗称」であり、言い得て妙。クレジットカードがいまほど一般的でなく共通通貨のユーロもない当時、フランスやベルギーなど別の国にはいるたびに所持していた現金を現地通貨に変え、その国で立派に使い切って日本に帰ってきた御一行だが、よくも紛失や盗難、はたまた物騒な事態に遭遇せずに済んだものだと、胸をなで下ろした。
見たもの、寄った店、食べたもの(メニューと合計金額)、泊まった宿でのエピソードや支払総額などが、淡々とつづられていく。
旅はもっぱらレンタカーで、カメラマンを兼ねた運転手役の人に数日早く現地入りしてもらい、クルマの手配や現地に慣れておいてもらう。数ヶ月前から郵便などを通じて予約しておいた宿とその道中の観光地をまわる、といったスタイルだ。読み書きほどにはフランス語の会話を得意としない著者が、宿に到着するとまず食事のメニューを借りて熟読し、全員で事前に注文を決めておいたため、食事の失敗や苦労もなく済んだ。
気に入った店をふたたび訪れて主人や従業員に以前の写真や著書を渡すなど、いかにも池波氏らしい気配りや、人柄を偲ばせるエピソードが出てくる。
池波氏の本を読んだことがない人にも、食べものの話が出てくる旅行記としておすすめ。