本日現在、月額980円のKindle読み放題サービスにはいっている本だが、活字本としては1760円。
新婚時代から、2013年に團十郎氏が他界されるまでを語り、それから3年して本書を出版された。文中にも、末尾にも、まさかその翌年に他界されることになろうとは誰も思わなかった真央さん(海老蔵氏の夫人)への、温かい思いがつづられている。
しきたりや伝えていくべき味を学ぼうにも、結婚するころにはすでに義父母の存在がなかった著者。番頭さんらにひとつひとつを教えてもらい、実家の親に料理を助けてもらいながら、夫とともに手探りで成田屋をもり立ててきた。だが自分たちとは違い、真央さんには自分と夫が築きあげた料理の伝統を伝えていけるのだと、それを楽しみに本を書かれたようだ。日付から推察して、本の準備中はまだ世間に真央さんの闘病は明らかにされていない時期であった。
料理そのものもたしかに美味しそうではあるのだが、なかなか知る機会のない歌舞伎役者の家庭、そして妻として家族として、舞台をいかに支えていくかの日々が細かく記されていて興味深い。團十郎氏が海老蔵時代の若手であったころは、まだチケットが売れ残ることもあったという。ご贔屓筋だけでなく新しいファン層の開拓も心がけ、おふたりでがんばった日々。手土産持参でご挨拶くださる人にはオリジナルグッズを差し上げるなど、著者ご自身がグッズを開発していることにも驚かされた。きめ細やかな配慮だ。
最後に、わたしは第十二代の團十郎氏がお亡くなりになったとは、いまだに信じられない。歌舞伎のほかにテレビで時代劇などに出演されることもあり、とても親しみを感じていた。
熱烈な歌舞伎ファンというわけではないのだが、ひさしぶりに舞台を見に出かけたい気分になった。