原発事故以降の福島の産業、それを支える地元の女性たちに関する本だ。阿武隈地域から避難してきた農業従事者の女性たちが生産と加工を担う「かーちゃん」たちのプロジェクト開始から3年間の歩みをつづる前半(塩谷氏担当)と、福島の被災者や避難者の暮らしぶりと手探りでの地域づくりを描く後半(岩崎氏担当)で構成される。
震災ののちに助成金を得てはじめた「かーちゃん」のプロジェクトほか、さまざまな生産者の事例や生産活動にかける思いが紹介される。もともと地域で活動をしていた生産者でノウハウを持つ人も多いが、やはり避難や一時移転で作業場を失うなど勝手が違ってしまったことにくわえ、このままではコミュニティが薄れるといった寂しさや危機感をかかえていた人々だ。
土地を一時的に離れても慣れた食べ物を生産し、分け合い、そしてできれば販路も見つけたいという思い。だが同時に、現在の暮らしが一時的なのか、または腰を落ち着ける場所となるのか、今後の暮らしはどうなるのかという不安もある。さまざまな葛藤があるが、途方にくれるよりも、どうにか前に進む−−そんな姿が見える。
復興のためのきっかけづくりとして助成金やアイディアの支援を得たグループもあるが、いずれは地元らしさ、自分たちらしさを強く出しつつ販路の安定と拡張、客層とのつながりを強固にしていくことになる。
山や海の幸に恵まれ、美しい土地である福島。原発のことや、政府からの扱いを嘆いてばかりではなく次世代に何を残せるかと前を向く人々を、素晴らしいと思う。