1900年代はじめ、モドラ(現在のスロバキアの都市)で暮らしていたリーガン家の人びとは、アメリカへの移住を予定していた。すでにアメリカに渡って仕事を得ている親戚と、上の息子たちは現地で生活基盤を整えており、残る家族も全員アメリカへという話になったのだ。
ところが直前になって、渡航費用がひとり分だけ不足していることが発覚。一家の妻が自分と娘たちのために記念の品を買ってしまったためだ。彼女がその誘惑にさえ負けなければ、話はまったく違った展開になっていた。
そして渡航費用の関係で、たったひとり、体に障害を持つ14歳の少年マサイアスが、アメリカ行きをいったん断念せざるを得なくなる。親戚の助けを得て引っ越したウィーンで、仲良しの猿ムッキを使った芸と占いを披露するようになったマサイアスは、たくましく成長していった。
数年後に父親がアメリカから迎えにやって来て、ようやく自分も渡航できることになったマサイアスだが、皮肉な運命で、アメリカでは方針が変更されてしまい、障害者を受け入れないと告げられる。現地で足を踏み入れることなく、ウィーンに帰ってきたマサイアス。
彼はムッキと町の広場で芸を見せ、ふたたび現地に馴染むが、彼がアメリカに縁のある人間と知り興味を持って近づいてきた女性と、結婚することになる。幸せな生活を営めるかと思った矢先、その女性はふたりのあいだに息子オットーを授かるとまもなく、アメリカに稼ぎに行くと語り、オットーを残して渡米してしまう。
そして、オットーが6歳のとき、母親の勤め先の縁で移民手続きの話が進み、オットーにだけ迎えがやってくる。こうして仲のよかった父と息子は、海を越えて離ればなれになった。いつか再会をと願いアメリカで成人したオットーだったが、やがて世の中は第二次大戦に突入して…
マサイアスとオットーが別れるころ(本の中間部分)までは、とても興味を持ってページを読みすすめたのだが、オットーがアメリカに渡ってのち、もうおそらくマサイアスとは会えないのだろうと思ったら、読むのがおっくうになってしまった。そしてそこから1年以上も放置してしまったのだが、最近になってそれはあまりにもったいないことだろうと、思い直した。そこでKindleを英語で読み上げてもらう設定にし、中央から最終部近くのまでを音声で聞きながら、ときおり画面で文字を追うようにして、読み終えた。
ようやく近年になって、マサイアスのその後を知ることができたラストは、よかった。
アメリカに渡ってから成人するまでは、オットーは生活の面では実母の影響下にあったが、周囲には上流階級の人たちがいて、観劇に連れていってもらうなど可愛がられた。そして空軍に進み、その後は事業をおこない、この本が出版された2017年のころは95歳でご存命とのことだった。
著者が主人公と知己であること、また、ご本人が存命であることとで、前半に出てくるような人の身勝手な部分や、つらさのようなものが、後半にはあまり描かれていないように感じた。やはり書きづらいことがあるのかもしれない。
英語の文章を楽しく読み慣れておきたいという人がいらっしゃれば、前半だけでも、おすすめしたい。
最後になるが、わたしがこの本をKindleでダウンロードしたのは、ちょっとした縁だった。Amazon.co.jpのサイトで、検索欄にたったひと言 Vienna (ウィーン)と入力したところ、これが出てきたのだ。こういう縁で本を読むこともあるのだと、あのときその検索をしなければ出会わなかったのだと、その偶然を気に入っている。