2019年06月22日

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 - 松永和紀

 先日なぜかAmazonの電子書籍で光文社新書が半額になっている例が多く見られたので、以前から気になっていた本をダウンロードしておいた、そのうちの一冊。



 わたしは食品に関心があり、長く通販をしているせいか、テレビ番組で「○○が効く」やら「○○で痩せる」などの特集があるたびに、その商品がまたたく間にネットから消えて行くのを見ては憤慨した。よく覚えているのは本書にも詳しく書かれているTBS系列の「白いんげん豆」で、これは豆はもちろん、豆を使った製品である白餡の素までもがネットから消えた。さらにはこの番組のせいで、放送後に重い体調不良に陥った視聴者もいた。

 バナナも、ココアも、寒天も、何度も何度も同じような品切れ狂想曲を奏でた。

 あるときのことだ。また何かが売り切れて、わたしは自分の運営していたサイトで「ばかみたいだ」と書いたことがある。すると、わたしが何に怒っているのかを気にかけず、ある会員さんが「店で見たのでいったん買って帰ったほかに夫に車を運転してもらって、ふたりで買いにもどった」と、嬉しそうに返信してきたことがあった。テレビで放送されたものは、とりあえず買わなければ気が済まないのだそうだ。ちなみに当時でおそらく60過ぎのご婦人だった。典型的なミーハーですからとご本人は軽く書いていらしたが、わたしはかなり驚いたものだった。

 本書は、なぜそういった根拠なきいい加減な情報がメディアで流されるのか、そしてそれらが強く否定されることもなく、責任の所在がいい加減なままで何度もくり返されるのかといった発信側の構造の問題(話題になるネタをとにかく売りつける)、そしていちいちメディアに対抗したり素人に説明するのも面倒だと、表に立つことが少ない学者や専門家の存在(誤りを実質的に放置してしまっている)を、語っていく。

 真剣に打ち消そうという努力がないために、○○が危ない、○○は体にいいといった第一報ばかりが人の心に残りやすくなるだけなく、何度も話題が再燃しやすい悪循環がそこにある。

 わたしもまた、メディアに不信感や不満をいだくことが多々ある。
 たとえば子宮頸がんワクチンの問題だ。副作用で深刻な症状になっている少女がいるのかいないのか(原因はほんとうにワクチンなのか)と関心を持っていた時期のことだが、厚生労働省が発表したデータに、信州大学の調査でワクチンと症状の因果関係が否定できない事例があったとの報道がなされた(2016年3月ころ)。わたしは「おや、そうだったのか、ほんとうに因果関係があるのか?」と驚いたが、その約5か月後(2016年8月)に、毎日新聞は、その信州大学のデータに捏造が疑われるという話があると、文中でさらりと書いた。実にさらっとである。これは、同じくらいの熱心さで書かなければ意味がないことではないかと、わたしは憤った。

 本書では、こうしたメディアや、専門家たち、そして受け手側である一般人が気をつけるべき点について書いている。10年以上前の本ではあるが、状況は変化していないので、これから読まれる方にもおすすめしたい。

 なお、わたしも大いに気になっているトランス脂肪酸の話題が出てきた。トランス脂肪酸が体によいというわけではないが、ことさらに何度も話題になるのは、トランス脂肪酸が多く含まれるマーガリンやショートニングが規制されることで、利害関係が生まれやすいからとのこと。バターを売りたいと思う国、パーム油を売りたいと思う国など、世の中にはそれぞれ事情があるのだ。なるほど。
posted by mikimarche at 19:00| Comment(0) | 実用(暮らし)