2016年04月29日

明治洋食事始め とんかつの誕生 - 岡田哲

 江戸時代以前から日本人が広く食べていた肉は、よく知られるウサギのほかは、イノシシとシカだったようだ。よく「四つ足のものは食べなかった」と言われるが、それはおもに牛と馬を指すものであった。なぜそのふたつがとくに禁忌であったかといえば、農耕で働かせていた家畜を殺して食肉にすることの不条理、さらにもとをただせば、かつて天武天皇が殺生禁断令を出した際に牛と馬が含まれていたことが影響しているのだろう。



 むろんそうした建前と人々の本音や好奇心は別であり、心の底からタブー視していた人ばかりでもない。禁止はあくまで役立つ生き物を「殺してまで」食べることはおかしいためと解釈し、働けなくなった牛馬をこっそりと食肉に回すことは、明治維新の以前より慣習となっていて、「薬食い」という呼び名がついていたそうだ。

 明治維新ののち、天皇みずから獣肉を食した。人々は少しずつ牛肉に関心をいだくようになったが、中には「一度でも獣肉を煮た鍋は捨てる」、「どうしても獣肉を室内で食べるのなら仏壇に目張りをする」といった人もいて、自分のものではなく隣家で借りた鍋で獣肉を煮た(それがばれて喧嘩になった)話などもあるらしい。

 気味悪がられるため、食肉を解体作業をする場所も、その土地を貸してくれる地主もなかった。横浜で解体したものを、都心に(冷蔵庫も自動車もなかった時代に)人間が担いで移動することもあったという。よく食中毒が起こらなかったものだ。起こっていたのかもしれないが…。

 本書は、最初に牛肉の流通や、おもに鍋としての食べ方の発展、つづいて日本らしい和洋折衷の「あんパン」、そして著者によれば日本人にとっての三大洋食のひとつ「とんかつ」(それ以外はカレーライスとコロッケ)について語り、最後に洋食文化について語って終わる。

 ポークカツレツから、箸を使った食べ方にふさわしい進化を遂げた「とんかつ」。刻み生キャベツと独特のソース、さくさくのパン粉と肉のハーモニー。

 これを読み終わると、とんかつが食べたくなる。
posted by mikimarche at 22:55| Comment(0) | 実用(歴史・文化)