2014年01月14日

御馳走帖 - 内田百

 著者の内田百閧ノついては、これまでまとまった形では、作品に触れずにいた。怪談などのテーマ別短編集ではもちろん目にしているが、著者単独の本としては、買って読んだ記憶がなかった。



 今回こうして手にとったのは、近所の書店にて、秋の食欲にちなんだ名前の棚があり、本書の名前が御馳走帖であったため、一緒に並べられていたためと思われる。実際には食べ物の話があるといっても著者の変人奇人ぶりをあますところなく発揮したエッセイであり、昭和前半を中心とした食べ物について資料価値が高いとは、いえないかもしれない。また、仮名遣いも漢字の表記も現代のものとは異なるため、雰囲気に慣れるまでなかなかページが進まなかった。

 とにかく、愛すべき素晴らしい変人である。人が会いに来ようにも、客があってもよい日時を普段から設けていたり、予定外の場所で食事を出されては自分の予定が狂うからと、午後遅くに人の家を訪れても、食事が出される気配を感じただけで無理やり辞す。自分の食事は何時に何を出せと家人に強く命じ、出前が少しでも遅れれば必ず小言をいうようにと申しつける。そうこうするうちに自分の時計が壊れたが、普段から厳しくいっているのだから蕎麦屋が来た時間が昼であると、考える始末。蕎麦屋もたいへんである。

 十代のころまで実家が裕福だったため、成人後に不自由することになっても、金の使い方が常人とは異なる。錬金術と称して金策に走るのだが、あくせく小銭を借りてくるのではなく、あるとき払いの約束をとりつけたり、出版社が厚意で絶版を復刻してくれるなどの機会にたすけられる。昼食は蕎麦の出前と決めていて、馴染みの車夫と目が合えば歩ける距離すら人力車、さらにはまとまった金を前借りして宴席を設けるなど、なにやらお殿様的な生き方だ。

 同席した人物を適当に「甘木」という名前で表現することが非常に多いが、その理由はP.102以降に説明される。本の中に何回の甘木が出てきても、同じ人物とは思わないほうが無難である。

 いたずら好きの人であったようで、猪の肉が送られてきて日替わりで客を招くことになった際には(P.244以降)…
「猪の肉は戦争前に二三度、外から送つて貰つたことがあるので初めてではないが、今度は肉のかたまりに添へて、毛の生えた猪の足頸が同じ箱に入れてある。気味が悪いから、この足頸でだれかを撫でてやらうと思つた」
 さすがに冗談かと思ったが、(P.246)…
「猪の肉はうまいもので、気味の悪い所なぞないのだが、お客の中に初めてだと云ふのもゐて、箸を出す前に少し嫌な顔をした。始める前にみんなに一通り毛の生えた足頸を握らしたから、その手ざはりが利いたかもしれない」

 この部分でも直後に触れられているが、P.377でも、鹿肉を大量にもらった際の詳細が語られる。人を招くことになり「言葉の姿をととのへるには馬を添へた方がいい」と(つまり「馬鹿」という言葉にする)、馬肉を買いに出かけたそうだ。洒落心のためには買い物の労も厭わず。

 とても魅力的な変人である。
posted by mikimarche at 15:00| Comment(0) | エッセイ

2014年01月01日

定番おせちとお祝い料理 - 世界文化社

(2009年秋に書いた記事を再掲)

 自分がこれから学びたい方面で類書が各社から出ていたら、「特選実用ブックス」にしておくと、はずれが少ない。以前にも餃子・春巻き、アジア料理ほか、何冊か読んで役に立った。基本を押さえているのはもちろんだが、簡単で手抜きのような要素が少ないため、そこそこ本格な気分が味わえるのもうれしい。

 おせちの本を持っていなかったことに気づき、本書を手にした。
 構成にすぐれ、読みやすいレシピがならぶ。



まずは定番の重箱詰めおせちの具から
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一の重
豆、伊達巻き、結びかまぼこ、昆布巻きなどの作り方と、関連したアレンジレシピ

二の重
紅白なます、わかさぎの南蛮漬け、牛すね肉のしょうゆ煮、ほか

三の重
煮しめ各種、残り野菜の活用法、鶏の松風焼き、おせち盛りつけ方法、ほか
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そのほか、手軽な皿盛りおせち
例:ローストビーフ、えびの道明寺粉揚げ、くわいの揚げ煮

お雑煮と餅料理
例:関東風雑煮、関西風雑煮、酸辛湯風スープ雑煮、明太子磯辺焼き

春夏秋冬のお祝い料理
例:雛祭り、こどもの日、暑気払い、十五夜、冬至、春の七草


 そしてページの合間には、くわい、ゆり根、うど、冬瓜などの下ごしらえ一覧もある。

 多くの家に、ほとんど使われていないお重が眠っているのではないだろうか。わが家も来客時に数回ほどおにぎりとおかずを詰めて出しただけのお重がある。年末にご家族で少しずつ担当し、お正月に食卓に出してみるのも、味わい深くてよいかと思う。
posted by mikimarche at 14:30| Comment(0) | 実用(食べ物・食文化)